○○たんはトイレにはいかない!

 好奇心に駆られてときめきメモリアルONLINE(以下、TMO)を一時期やっていたことがあります。
元ネタは、まぁ、あの色々賛否両論あるときめきメモリアルなわけですが、学生のキャラを作って仮想空間の学校ないしは教室でクラスメートやその他の友達と遊ぼう。と、まぁそういうものです。
 私自身はときめきメモリアルをやったことがないので、このゲームがどれほど『ときメモ的』か、については言えません。とはいえクラスメートに原作ファンが多数いたところを見ると、それなりに、メモラーと呼ばれる彼らを満足せしめる内容だったのでしょう。
 やれることは大きく分けるとこの5つ『チャット』『授業』『部活』『ドラマイベント』『恋愛候補生』
『チャット』に関してはある種今回のお話の中心(と、いうと大きく語弊が生じうるのですが)となってくるので後へ残しておくとして、他の4要素がどのようなものであるかについて以下に感想も交えて語ろうと思います。

○授業
 TMOの世界において授業は各教科に基づいたジャンルの○×クイズ、ないしは4択クイズで構成され、5分程度の10問構成となっています。国語なら文学、ことわざ故事成語。数学なら算数問題、数学用語の基礎知識、公式理解。といったようにおおむねそのジャンルからは逸脱していない問題が出てきます。まぁ、中には芸術のように『マンガ・アニメジャンル』が大きく関わってくるために半端オタクである私にはさっぱり答えられないものもありますが。
 私は元来クイズゲームが好きなので、これらのクイズに関してはおおむね楽しめたと言えるでしょう。惜しむらくは15分に一度、5分間しかないので、授業だけで受けてこのゲームを過ごそうと思えば10分もの退屈な時間を過ごさなくてはならないこと、でしょうか。一人の時には並行作業で色々やれるためこれはラッキーなのですが、教室内に2人しかいないとかいう事態になると目も当てられません。『1クイズ2気遣い』のとんでもないゲームと化します。特に、その時教室にいる人がそれほど親しくなければ尚更。

○部活
 TMOの世界において、部活とは戦闘の事です。他MMOにおけるPvEの概念がTMOではこの部活にあたります。
 きちんと説明するには専門用語が多々必要になり、激しく冗長になるのでここでは省略しますが。

  • 常に1vs1であり、部活中のチャットは不可能
  • 通常のMMO以上に単純作業度が著しく、催眠作用に優れている

 などの問題点があり、少なくとも私にとっては面白い代物ではなかった。(1vs1に関しては改善されたらしい)

○ドラマイベント
 これはひどい
 端的に言うと、ネトゲ内で2人プレイのギャルゲーをやらされます(CPUを相方にした1人プレイも可)
 しかし、それが部活に密接にリンクした関係なため、どんなにギャルゲーに抵抗がある人間でも部活がしたければ通らなければならない、という茨の道である。
 特に『二人のクリスマス』と言うイベントはありえないくらい恋愛要素が強く、てか、キモイ。
 そのくせ、このイベントに限って1人でやる場合と2人でやる場合とで、部活への関わりかたが違うのです。
 つまり『これに限って』『絶対に』『異性キャラクターと組んで』プレイしなくてはなりません。ざけんな。

○恋愛候補生
 ときメモです。以上。完全CPU相手のドラマイベントだと思って下さい。
 どうしてオンラインゲームでこのようなオナニー成分を用意しているのか理解に苦しみます。
 ちなみに私は進めていません。

○チャット
 さて、ようやく本題のチャットに入れるわけなのですが。
 一応、オンラインゲームと銘打ってあるにも関わらず孤独感溢れる部活設計だったり、恋愛候補生のようなオナニーイベントがあったり、とどうにもトンチキな仕様のときメモオンラインですが、チャットゲーというベクトルで考えた場合に非常に力を入れている部分が一つあります。それは『2ショットチャット』
 これは、ドラマイベントで登場するリアル等身キャラ画像(普段はチビキャラを使用)を用いて2人のみでチャットをする機能で、通常のMMO、そしてこのTMOでもMAP画面では『吹き出し型エモーション』として処理されるものが実際にキャラの表情に表れて来るものであり、さながら実際に会話をしているよう…には遠く及ばない代物です。実際2人で話すときには便利だし、私はトラブルに巻き込まれやすい性格上使用回数も決して少なくはなかったのですが、冷静に考えてみるとこれは必要なものでしょうか?
 そこで他のチャット機能も振り返ってみれば、TMOには『2人で話をする成分』として『内緒話』『友達話』『2ショット』という3つの成分があります。『内緒』は近距離でしか聞こえず『友達』は『友達登録』を行った人専用の『内緒』です。これはどれだけ離れていても聞こえます
 つまり、流れ的にはこう

 可愛い子発見→内緒→友達になろー→どこからでもピンポイント射撃で友達話→待ち合わせて2ショしない?

 はいはい、ナンパゲー ナンパゲー

 2人の機能にこれだけ力を入れていながら、他のチャット機能は結構普通です。私のグループは3人組で話す事が多かったので、このリアル等身会話が3人で出来ればいいねー、とよく話していたものでした。ドラマイベント等では3人同時表示なども普通にされていたため、不可能な事ではないのです。より恋愛ネトゲーにしたいからやりたくないだけとしか思えませんね。

 ただ、これには大きな弊害があります。
 結局のところ、2人の世界にこもる人間が現れると、いくらクラスに人間がいようとそこは別世界。いないも同然です。
 外にいかなる変化があろうと当事者2名には全く知るよしもありません。
 また、他のMMOをやっている故に痛感することなのですが『チャット以外のゲーム性』が著しく低い場合『チャットそのものの話題がなくなる』という状況が往々にして発生します。リアルを一生懸命頑張っている人同士であったり、世の中の変化に敏感な話し上手さんが一人でもいれば教室は社交場としての機能を大きく発揮するのですが、ぶっちゃけネトゲーにハマっている人たちでそんな人は稀少です。
 ネトゲー内の『つよいよわい』『持つ持たざる』にのみ興味を向けていた人間にとっては、部活でどれくらい強くなったか、とか、欲しいアイテムがどれだけ手に入ったかという話題が従来であれば最もウェイトを占めていたはずなのに、このような世界ではそれもままならないと言ってよく、ある程度自慢してしまえば部活に戻るか、その他大勢として授業にまざるしかありません。そのような人たちが話し上手である事は、なお稀少と言えるため、彼らがコミュニケーションの潤滑油として役だつことはあまりありません。
 また、そうではない前者のような人たちは、おおざっぱに言って、モテます。もしくは賢く付き合うべき相手を見極めます。なので、話し上手な人たちというのは等差級数的レベルにはとどまるものの、コミュニティー全体への貢献、という見地からは減少の一途を辿ります。私も、消去法でいけば前者の部類に属していたので、結局話があう人たちとばかり話していたクチですから。
 教室にいる人たちというのは、なんの恣意性も持たず、ランダムに選ばれた人たちですから、その中で全員が仲良くしろとは言うつもりはないのですが、チャット面は『2人への特化』それ以外の面では『1人への特化』をはかっているようなバランスにおいて『クラス全体の絆』等というものが長持ちするはずがありません。一つの固まりであったものは、あたかも家系図のように子、孫的固まりを作り、時にはは互いに結びつき、無数の分派を生む結果になります。これはどうしようもなく必然的な変化です。
 このゲームをやることが愚か、と断言することは私には出来ません。少なくともチャットと授業だけは良い仲間に恵まれたおかげでそれなりに楽しくやることが出来たのですし。ですが長く続けるにはあまりに辛すぎる、というのが正直なところでしょう。
 その原因の多くは、今まで挙げたようなシステムの不備(こちら側からみれば不備だとはいえ、運営の恣意を考えれば仕様と呼ぶしかないのですが)にあると思います。私がやっていた時代の末期の状態をうまく表すとすればこうでしょうか

 あえて言おう『パンヤロビー』であると!

 学校は統合されたようですが相変わらずパンヤロビー機能は絶好調なようで、2chの本スレにパンヤのテンプレが貼られている始末です。それならみんなメッセにしてやめていいじゃない、と思うのですが…ここでもう一つ考える事があります。
 リビングレジェンドオンラインゲーム…もといラグナロクオンラインも、このゲームもそうなのですが、とにかく『アバターが可愛い』事があげられます。特にTMOに関しては2ショ等で綺麗なグラフィックで自分のキャラが表示されるので、それがハマった場合その偏愛っぷりはさらに加速することでしょう。そしてそのキャラクタが自分、ないしは親しい他のプレイヤの分身である場合、そのキャラが二度と見えなくなる、という事態には少なからず抵抗があることでしょう。
 オンラインゲームのアバター…特に前に挙げた2つに関しては、単純なドット絵ながら巧く可愛らしさを表現しているため、リアルないしメールやメッセンジャー等の他のコミュニケーションツールでは多少『ぶりっこ』が過ぎるような事を女性キャラクターが言ってもそれほど違和感がなく受け入れられる傾向にあるようです。ここでは特に女性(含ネカマ)に限定させてもらいますが、そのゲーム上では彼女は『美人姉』であり『可愛い妹』なのです。現実でも美人が格好のいい発言をすれば、可愛い子がちょっと抜けた発言をすれば、それは当然のように標準以上の評価を持って受け入れられるものです。彼女らは、リアルでの評価に関わらず、こういったオンラインゲーム上でそういう発言をした場合『偶像』として個人ないしグループに認識されることになります。これは、そもそもが選ばれた人間にしか与えられないものであるはずが自分に与えられた、ということで思いがけない多幸感をもたらす事でしょう。
 また、身の回りにそういった女性の存在がない男性たち(含ネカマ)にとってこういった『偶像』と毎日コミュニケーション出来る、あわよくば現実世界でステディ(笑)な関係になれるかもしれないという幻想は、オンラインゲームの月額に支払う金額以上に絶対的価値のあるもので、これも、女性と同じく幸福感を得られます。
 ただ、○○たん萌えー、○○姉さん萌えー、と言ったり言われたりしているだけで幸せであり、そこで自己完結しているのならばなんともほほえましい『しあわせのくに』なのですが、現実はそう簡単に彼らを逃がしたりはしません。一瞬よぎるリアルの自分(ないしは相手)の『虚像的実像』に常に脅かされているのです。そしてそれが皮肉な事にさらなる、オンラインゲームへの傾倒に拍車をかけます。
 今更私程度の人間が語るような事ではありませんが、そのような面においてオンラインゲームは立派すぎるほど立派な麻薬です。
 リアル、ないしはオンラインゲーム以外のネット上での楽しみが増えれば増えるほどこの麻薬効果は薄れて来るのですが、どこに本来的な幸福、そして価値観を求めるかはその人次第です。ぶっちゃけようは自分が死ななきゃいいんです。
 他人(血の分けた家族も含む、厳密に他の人)も幸せ、自分も幸せ、が最も望ましい状態であることは疑いようのない真実ですが、法の上で禁止されていない麻薬を用いることで得られる幸福だって、十全な幸福だと言えるでしょう。
 ある人にとってインターネットがリアルのエッセンスであるように、ある人にとってリアルはインターネットのエッセンスに過ぎません。今目の前にあるものを最大限活用して幸福をつかみ取ることに、誰にも文句を言われる筋合いはないのです。
 ○○たんは、そりゃ人間ですからトイレにいけば排泄もしますが、『あなたの』○○たんはトイレにいかないんです。それでいいんです。
 
 全てのオンラインゲームプレーヤーに 幸あれ